養護学校(特別支援学校の以前の呼び名)の教員をやっているとき、障がいのある子どもたちに惚れ込み、彼らとはいっしょに生きていった方がトク!と、学校を定年退職するときに彼らといっしょに生きる「ぷかぷか」を立ち上げました。
立ち上げてから気がついたのは、彼らがいることで社会が豊かになる、ということでした。あれができない、これができない、言うことが通じない、勝手なことをする等々、と社会から排除されることの多い彼等が、どうして社会を豊かにするのか。
ぷかぷかは街の中でパン屋、お惣菜屋をやっています。たくさんのお客さんがやってきます。ぷかぷかさんたちがお店で働くことで、ちょっとホッとできるような雰囲気のお店になっています。お客さんたちが、そういう雰囲気に気がつくと、障がいのある人達の見方が、ほんの少しですが変わります。「彼等って、こんな雰囲気を作ってくれるんだ」っていう気づきは、人間の幅を少し広げてくれます。広がった分、人生が、少し豊かになります。そういう人たちが少しずつ増えること、それが、社会が豊かになる、という意味です。
「マイナスのイメージの多い障がいのある人達が社会を豊かにしている」なんて、なんか素敵じゃないですか。共に生きる社会を作ろう、とか、共生社会つくろうとか言わなくても、お客さんたちは、彼等っていた方がいいね、って自然に思ってくれます。
こんな雰囲気のお店を作るコツは、彼等が自分らしく、のびのびといられる雰囲気を作ることです。
それは彼等とどういう関係を作るか、ということに関わっていると思います。社会の多くは、彼等に対して何かやってあげるとか、支援するとか、言ってみれば上から目線の関係が多いと思います。そういう関係の中で生まれるものは、どこまでも支援する側の発想が生むものでしかありません。ですから今までにない新しいもの、といったものはなかなか生まれません。
でもいっしょに生きていく、という関係だと、彼等の発想がそのまま生かされるので、思ってもみない新しいものが生まれます。
私は彼らに惚れ込んでぷかぷかを作ったので、彼等との関係はどこまでもフラット。いっしょに生きていく関係です。
一般的には、障がいのある人達は社会にあわせるのがいいと思われています。お店を始めるとき、お客さん相手にどう接客すればいいのかわからないので、講師を呼んで接客の講習会をやったとことがあります。接客マニュアルというのがあって、その通りにやれば接客が上手にできるというものでした。ところが実際にぷかぷかさんがマニュアルどおりにやると、なんか気色悪いのです。マニュアルに合わせようとすればするほど、いつものぷかぷかさんじゃないのです。
で、接客マニュアルは使わず、ありのままのぷかぷかさんで接客してもらうことにしました。接客マニュアルはいわば社会に合わせるマニュアルです。それを使わないというのは、社会にあわせないことを意味します。社会にあわせるのではなく、そのままのぷかぷかさんで勝負しよう、ということです。
勝負するとか言っても、接客マニュアルがなければ、うまい接客なんかできないのではないか、という不安がありました。そういう不安を抱えたままのスタートだったのですが、なんと「ぷかぷかさん素敵!」とか「ぷかぷかさんが好き!」というファンが現れたのです。
つまり、そのままのぷかぷかさんの魅力に気がついた人達がたくさん現れたのです。「なんだ、別に社会にあわせなくてもいいじゃん」って、思いましたね。
お客さんたちはぷかぷかのお店に来て、ぷかぷかさんたちと出会います。社会にあわせたぷかぷかさんではなく、そのままのぷかぷかさんです。彼らと出会うことは、人間の幅を広げることです。「障害者」のイメージが変わったと思います。
なんとなくいやだと思っていた「障害者」が、ぷかぷかに来ると、なんか違う。いやどころか、好きになってしまった。これはどういうことか。
別に「共に生きる社会を作ろう」とか「共生社会を作ろう」とか言ったわけではありません。ただそのままのぷかぷかさんでお店をやっただけです。
私は彼らとはいっしょに生きていった方がトクだ、と思っています。そばにいると心が安らいだり楽しかったりしますが、社会的にはどうなのか。つまり社会にとって彼らといっしょに生きる意味はなんなのか、ということです。ほんとうにトクなのかどうか。
お惣菜にメニューに彼等の絵が入ると、こんな風にグンと楽しい雰囲気になります。これはどう考えてもトクだと思います。
買い物袋にぷかぷかさんの絵。ただの買い物袋がこんなに楽しい袋になります。
こういった絵が味気ない社会を豊かにします。