津久井やまゆり園事件について考える集まりに行ってきました。
いろいろいいお話が聞けたいい集まりだったと思います。
講師の佐藤さんは大学の先生らしく、話が論理的で若干堅い感じがしましたが、障がいのある息子さんがいらっしゃるようで、その息子さんの話をする時はとても柔らかい感じになって、佐藤さんの人柄を感じました。息子さんを連れて銭湯に行った時のほかのお客さんの目線の話は、とてもリアルで、今まで息子さんを巡っていろいろ辛いことがあったんだろうなと思いました。
毎日新聞の上東さんは社会の無関心が一番の敵、という指摘をされていましたが、多分上東さんが書かれている「やまゆり園事件は終わったか」のシリーズも、読む人が限られているんだろうなと思いました。そこをどう広げていくかは私たちみんなの問題です。
先日ぷかぷかの演劇ワークショップの記録映画の上映を手がかりにやまゆり園事件を考える集まりをやったのですが、その時に参加した学生さんがこんな感想を書いてくれました。
「この事件が起きた当時、私は「なんて悲惨な事件なんだろう」とただただ悲しい気持ちになることしかできませんでした。障がいをもつ19人もの命を奪っただけでなく、重傷を負った方がいたり、その家族や大切な人を傷つけたり、凄惨な事件であることの認識はできたものの、その事件を越えるために自分に何ができるのか、考えたことはありませんでした。自分から遠い出来事なのだと考えてしまっていたのです。
しかし、今日のトークイベントに参加して、全くもってそうではなかったのだと、今までの自分が情けなく感じました。事件は、容疑者だけの問題ではなく、そのような考えを生んでしまった社会全体でとらえていかなくてはならないのだと強く感じました。」
「自分に何ができるのか、考える」この気づきがよかったなと思います。
創英大学で授業があるので、美帆ちゃんの話をしようかなと持っています。美帆ちゃんは19歳で事件の犠牲になりました。学生さん達とほぼ同年代です。そういう接点での話を学生さんがどんな風に受け止めてくれるのか、楽しみにしています。
やっぱり相手と事件の接点を見つけながら話していくことだ大事だと思います。
虐待についての話で一点だけ気になるところがありました。
虐待をする現場の人間に強度行動障害の人に対応するスキルがなかった、専門知識がなかった、という話が何度か出ました。確かにその部分はあるにしても、その前に、利用者さんと人として出会ってなかった、ということがあるのではないかと思います。
利用者さんと人として出会っていれば、虐待なんて起こりようがありません。相手を人として見ることができていれば、虐待なんてできません。それが人としての感覚です。相手と人として出会っていないと、この、人としての感覚を失います。
施設の大きな問題は、利用者さんと人として出会える環境、人としてつきあう環境がない、ということではないかと思います。スキルとか専門知識の前に、そういった環境を考えることこそ大事な気がします。
スキルや専門知識をバッチリ身につけると、それを通してしか相手を見ることができなくなり、それは人として出会う機会をむしろ阻害します。スキルや専門知識で対応できるのは利用者さんの限られた部分です。利用者さんも人間ですから、よくわからない部分が多いのです。そこは謙虚に向き合っていくしかないのだと思います。
養護学校の教員をやっている時、シノちゃんという生徒がいました。シノちゃんは強度行動障害の生徒でした。毎日のように殴られ、蹴られしていました。顔面を思いっきり殴られ、鼻血が止まらなくなって病院に担ぎ込まれたこともあります。私には専門のスキルも知識もありませんでした。ただシノちゃんが時折遠くを眺めながらニッと笑うその笑顔がとても素敵でした。殴られたり蹴られたりした痛みがいっぺんに吹き飛んでしまうくらい素敵な笑顔でした。私にできたのは、その笑顔を見ながら、ただそばに行って黙って寄り添うことだけでした。そんな日々を繰り返す中で、シノちゃんはいつしかどこかへ出かける時は私の手を握ってくるようになりました。殴る、蹴るは相変わらずでしたが、それでも素直に手を出してくるのです。たったそれだけのことですが、シノちゃんの気持ちが伝わってきました。定年前の2年間担任しましたが、30年の教員生活で一番印象に残っている生徒です。
もう一つ、スキルや専門知識が必要となると、ふつうの人にとっては、それがないと重度障害の人には付き合えないのか、ということになります。そんなのなくてもふつうに付き合えばいいですよって言えるような関係こそ広げていきたいと思うのです。もちろんいろんなトラブルもあるでしょう。それもお互いを磨くいい機会だと思って前に進んだ方がいいと思います。トラブルは相手と出会ういい機会です。
かつては強度行動障害と言われ、やまゆり園に入っていた尾野一矢さんが、自立生活を始め、最近ぷかぷかに来るようになりました。陶芸をやるようになって、とても穏やかな表情を見せるようになりました。
特別なスキルや専門知識がなくても、ふつうにつきあっていれば、こんな表情が出てくるのです。「一矢さんて、優しいおじさんだったんだ」って、私は一矢さんとあらためて出会った気がしました。
一矢さん、ぷかぷかがだんだん楽しくなって、こんなにいい顔をします。
利用者さんとは、お互いこんな顔して「いい一日だったね」って言い合えるような関係でありたいと思っています。
施設に、そういった関係があれば、虐待なんて起こりません。そういった関係は、スキルや専門知識ではなく、人と人のあたたかなおつきあいです。