ぷかぷか日記

ぷかぷか理事長タカサキによる元気日記

ぷかぷか日記は以下に移転しました。
ぷかぷか日記 – NPO法人ぷかぷか

かずやさんの作ったコーヒーカップが欲しい(相模原障害者殺傷事件5年目に思うこと−④)

 「かずやしんぶん」を読んだ方から、

「かずやさんの作ったコーヒーカップが欲しい」

というリクエストがあったそうです。すごくうれしい反応です。

 かずやさんの陶芸は、かずやさんの自立生活に彩りを添えられたら、と思って始めたものです。暮らしの中に自分で作ったコーヒーカップや、植木鉢、花瓶などががあったら、ちょっと素敵な雰囲気になります。

    f:id:pukapuka-pan:20210720141724j:plain

    f:id:pukapuka-pan:20210720141728j:plain

    f:id:pukapuka-pan:20210720141752j:plain

f:id:pukapuka-pan:20210720141802j:plain


 そんな思いで陶芸をやっていたのですが、友達大作戦がスタートし、「かずやしんぶん」に

「かずやさんの作ったコーヒーカップ、ご希望の方にはおわけしますよ」

と書き込んだところ、すぐに反応が出てきたというわけです。

 「欲しい人がいっぱい出てきたらどうしましょうか」

と、介護に入っている大坪さんは心配していました。かずやカップはそんなに数がありません。これから頑張って作るにしてもかずやさんの気分次第のところがあるので、そんなにたくさんはできません。

 ですから欲しい人は少し待ってもらうことになります。かずやカップは待たないと手に入らないことになります。待ってでも手に入れたいカップになれば、かずやカップの価値は何倍にもなります。

 そうやってかずやさんが街にいることの意味が広がっていきます。

 「障害者はいない方がいい」といって起こした相模原障害者殺傷事件。でも、かずやさんの活動は、

「かずやさんの作ったコーヒーカップが欲しい」

と思う人を作り出しました。そう思う人が増えていけば、かずやさんが街にいることの意味がたくさんの人と共有できます。

「かずやさんがこの街にいてよかったね」

と思う人が増えて行くことになります。こんな風にして、事件を超える街ができ上がっていきます。

小さな「ともに生きる社会」がここにできつつあります。(相模原障害者殺傷事件5年目に思うこと−③)

 5年前の事件直後、神奈川県障害支援課から防犯設備を設置する場合はお金を出します、といった趣旨のメールが何度も来ました。神奈川県の事件検証委員会の報告書に防犯上の問題が事件の原因であるようなことが書いてあったためだと思われます。報告書にはやまゆり園の支援の実態には全くふれていなくて、問題のすり替え、といった感じでした。やまゆり園の責任とその監督庁である神奈川県の責任を避けた、という印象でした。

  いずれにしても、その報告書を受けてのメールだったと思いますが、ぷかぷかは障害のある人たちと地域の人たちの出会いの場としてお店を作ったので、地域に対して塀を高くするようなことは一切しませんでした。お店はいつもオープンであり、帰りの会に地域の人たちが参加することも度々ありました。赤ちゃんを抱っこしたお母さんが帰りの会に参加したことがありました。たまたまその子の誕生日だったので、ぷかぷかさんたちみんなでハッピーバースデーの歌を歌いました。そばにいたお父さん、思いもよらないハッピーバースデーの歌に感激して涙を流していました。そんなおつきあいが事件後も変わりなく続いていました。

 

 

 昨年5月に開所した生活支援事業所「でんぱた」も、地域とのつながりを大事にしていました。畑仕事をぷかぷかさんと地域の人たちが一緒にやるのです。

 7月15日にNHKニュースウオッチ9で、その「でんぱた」を1年間取材したまとめが放映されました。

 田植え、稲刈りは地域の人たちがたくさん手伝いに来てくれました。

f:id:pukapuka-pan:20210718140120j:plain

f:id:pukapuka-pan:20210718140117j:plain

f:id:pukapuka-pan:20210718140124j:plain

f:id:pukapuka-pan:20210718140608j:plain

 

こうやっておつきあいした地域の人たちの言葉がすごくいいですね。

f:id:pukapuka-pan:20210718140809j:plain

f:id:pukapuka-pan:20210718140813j:plain

f:id:pukapuka-pan:20210718140855j:plain

 

 事件の犯人が、障害のある人たちとこういうおつきあいをしていれば、事件は起きなかったと思うのです。どうしてこういう当たり前のふつうのおつきあいができなかったのでしょう。「支援」という上から目線の関係は、相手と人としておつきあいすることを排除してしまうのでしょうか?

 

 

 「でんぱた」もすべてが順風満帆ではありません。彼らの大声がうるさいと苦情が来たり、「でんぱたしんぶん」を持っていっても、素直に受け取ってくれない方もいたようです。

f:id:pukapuka-pan:20210718142703j:plain


 
 ま、でもこういう声としっかり向き合うことが大事だと思います。どうしてこういう声が出てくるのか、どういう社会的な背景があるのか、それに対して私たちは何をすべきなのか、何ができるのか。それを考えて考えて考え抜くこと。それが私たちの人間を磨きます。

 こういう問題に特効薬はありません。地道に地域で関係を広げていくことと、彼らの魅力を様々な形で発信していくこと、そしてそれをとにかく続けていくこと、それが大事だと思います。

 

 ぷかぷかさんたちのこと好きになった人が少しずつ増えているのですから、ここには希望があります。

f:id:pukapuka-pan:20210718144310j:plain

f:id:pukapuka-pan:20210718144403j:plain

f:id:pukapuka-pan:20210718144449j:plain

f:id:pukapuka-pan:20210718144535j:plain

f:id:pukapuka-pan:20210718144630j:plain

 

 小さな「ともに生きる社会」「共生社会」がここにできつつあります。







 

たかがしんぶん、されどしんぶん(相模原障害者殺傷事件5年目に思うこと-②)

 昨日NHK「おはよう日本」で相模原事件5年目の関連でかずやさんの自立生活が紹介されました。昨年の映像との違いは、地域社会とのつながりができはじめたこと。施設を出て地域で暮らす、というのは、ただ単にアパートで好きに暮らすのではなく、地域社会との様々な関わりの中で暮らすことです。その関わりがほんの少し見えたかな、という映像でした。

 「かずやしんぶん」が、いい働きをしていましたね。「かずやしんぶん」は、かずやさんの大声に近所の方から寄せられた苦情に対し、ただ謝罪しただけで終わるのではなく、これを機会に地域の人たちといい関係を作っていこうとスタートした「友達大作戦」の中の1つです。

 A5版6ページの小さなしんぶんです。

        f:id:pukapuka-pan:20210714163251j:plain

www.pukapuka.or.jp

 

 その小さなしんぶんが映像を見ていると、かずやさんの周りでとてもいい働きをしていました。

 いつも買い物に行くスーパーに持っていって店員さんに渡すと

f:id:pukapuka-pan:20210716015609j:plain

f:id:pukapuka-pan:20210716015613j:plain

f:id:pukapuka-pan:20210716015614j:plain

こんな関係が生まれました。ただ買い物をするだけでなく、しんぶんを渡すことで、ちょっとだけ前に進んだ会話ができたのです。ここから今までと少し違う関係が始まります。

 

かずやさんのすぐ近所の自転車屋さんに持っていくと

f:id:pukapuka-pan:20210716020058j:plain

f:id:pukapuka-pan:20210716020102j:plain

 

  後日、介護の方から「先日しんぶんを渡した隣の自転車屋さんの若いスタッフの男性が、チョコレートとコーヒーを差し入れに来てくれました。お子さんが、やはり障害をお持ちとの事で、ハートネットTVなども見て感心していたとの話をしてくれました。地域関係少しずつ前進中!」と連絡が入りました。

 「かずやしんぶん」は小さなしんぶんです。でもこうやって、人を動かすチカラを持っています。

「たかがしんぶん、されどしんぶん」

なのです。しんぶんがなければ、こういった関係は、多分生まれなかったと思います。小さいながらも、いい働きをしてくれるのです。

 「かずやしんぶん」がこれからもっと地域に広がっていけば、もっといろんなおもしろい反応が出てくると思います。

 重度障害者の自立生活が地域社会を豊かにすることが目に見えるかも知れません。

 苦情が来たというピンチが、地域社会が変わるチャンスになるかも知れません。

 

 相模原障害者殺傷事件から5年、あの時「障害者はいない方がいい」「障害者は不幸しか生まない」などと排除された重度障害者が、今、地域のアパートで自立生活を送る中で、地域社会を豊かに変えていこうとしているのです。

 

「かずやしんぶん」の反応が早くも

 かずやさんの介護をやっている方からうれしいお知らせ。

 ●●●

 先程アパートに、先日しんぶんを渡したお店の若いスタッフの男性が、チョコレートとコーヒーを差し入れに来てくれました。お子さんが、やはり障害をお持ちとの事で、動画なども見て感心していたとの話をしてくれました。地域関係少しずつ前進中!

●●●

 「かずやしんぶん」の反応が早くも現れたようです。しんぶんがもっと広がっていくと、もっといろんな反応が出てくるだろうなと思います。楽しみです。

 そのうち

「かずやしんぶんを楽しみにしています」

っていう人も出てくるといいなと思います。

 ぷかぷかしんぶんを発行し始めて1年目くらいだったか、配布している時にすれ違った人が

「お店には行かないんだけど、しんぶんはいつも楽しみにしていますよ」

と声をかけてくれたことがあります。すんごくうれしかったですね。

 かずやさんが街を歩く時、そんな風に声をかけてくれる人が出てきたら、友達大作戦は大成功です。

     f:id:pukapuka-pan:20210714163251j:plain

 7月15日(木)NHK「おはよう日本」(午前7時〜8時)でかずやさんと大坪さんがお店に「かずやしんぶん」を届けるところが紹介されます。

 7月15日(木)NHK「ニュースウオッチ9」で昨年5月に開所した生活介護の事業所「でんぱた」の活動が紹介されます。地域の人たちとのいろんな関わりが紹介されるようです。

      f:id:pukapuka-pan:20210714164034j:plain

 

 いずれも相模原事件5年目の関連です。ぜひ見て下さい。

 

 

相模原障害者殺傷事件5年目に思うこと①

 相模原障害者殺傷事件が起きて5年になります。あれだけ衝撃的な事件だったので、社会は本当に変わるのではないかと思っていましたが、5年目の今、結局は何も変わってないな、というのが実感です。そのモヤモヤした気持ちを少しずつ書いていこうと思います。

 

 神奈川県では当事者目線により福祉に切り替えるそうですね。これも事件を受けて出てきたそうです。

www.pref.kanagawa.jp

 議事録も載っていましたが、私にとってはなんだかむつかしそうな話で、とても読む気になれません。こういう話をやって社会は変わるのだろうかと思います。それよりも、目の前の当事者の方とどんなおつきあいをしていくのか、というところこそ大事にしたいと思うのです。

 

 昨日たまたまイクミンが素晴らしい絵を描いているのを見つけました。

f:id:pukapuka-pan:20210711171543j:plain

「え?これが猫?」

「そうです」

「なんでこれが猫なの?」

「なんでって、これ、猫ですよ」

 右側の猫の写真を見て描いたそうですが、イクミンの頭を通り抜けると、左のようなカラフルな猫に変わるみたいです。

「こんなの猫じゃないじゃん」

というのが、多分一般的です。「指導」とか「支援」はそういう方向性を持っています。以前教員をやっていた私もそうでした。猫はこうやって描くのが正しいなんてことを「指導」していたのです。でも、子どもたちと関わる中で、子どもたちの作り出すものの方がはるかに楽しいことに気がつきました。その気づきは、自分の中にある「正しさ」を問い直すことでもありました。

 

 以前も書いたことですが、養護学校の教員をやっていた頃、こんなことがありました。クラスのみんなで一抱えくらいある大きな犬を紙粘土で作ったときのことです。小学部の6年生です。何日もかかって作り上げ、ようやく完成という頃、けんちゃんにちょっと質問してみました。

「ところでけんちゃん、今、みんなでつくっているこれは、なんだっけ」

「あのね、あのね、あの……あのね…、え〜と、あのね…」

と、一生懸命考えていました。なかなか答えが出てきません。

「うん、さぁよく見て、これはなんだっけ」

と、大きな犬をけんちゃんの前に差し出しました。けんちゃんはそれを見て更に一生懸命考え、

「そうだ、わかった!」

と、もう飛び上がらんばかりの顔つきで、

「おさかな!」

と、思いっきり大きな声で答えたのでした。

 一瞬カクッときましたが、なんともいえないおかしさがワァ〜ンと体中を駆け巡り、思わず

「カンカンカン、あたりぃ! 座布団5枚!」

って、大きな声で叫んだのでした。

 それを聞いて

「やった!」

と言わんばかりのけんちゃんの嬉しそうな顔。こっちまで幸せになってしまうような笑顔。こういう人とはいっしょに生きていった方が絶対トク!、と理屈抜きに思いました。

 もちろんその時、

「けんちゃん。これはおさかなではありません。犬です。いいですか、犬ですよ。よく覚えておいてくださいね。い、ぬ、です。わかりましたか?」

と、正しい答をけんちゃんに教える方法もあったでしょう。むしろこっちの方が一般的であり、正しいと思います。まじめな、指導に熱心な教員なら多分こうしたと思います。

 でも、けんちゃんのあのときの答は、そういう正しい世界を、もう超えてしまっているように思いました。あの時、あの場をガサッとゆすった「おさかな!」という言葉は、正しい答よりもはるかに光っています。

 

 事件の犯人が、障がいのある人たちとこんな出会いをしていれば、あんな惨劇は絶対におきなかったと思います。

 優生思想を超える、といった小むつかしい話ではありません。彼らと楽しい出会いをすること、ただそれだけで、相模原障害者殺傷事件を生むような社会を変えることができると思うのです。

 犯人は毎日障害のある人たちとおつきあいしながら、どうしてそんな出会いをすることができなかったのか、そこを考えることはとても大事なことです。このことについては、また別の機会に書きます。

 

 今日紹介したイクミンの絵は、社会を覆う「正しさ」について、とても大事な提案をしていると思います。あの猫の絵を見てあなたはどう思いますか?

 

  

彼らはこうやって新しい未来を作っているのだと思います。

 パンの厨房では、メロンパンの皮の生地を作る人、皮の重さを量る人がいます。

f:id:pukapuka-pan:20210710145513j:plain

f:id:pukapuka-pan:20210710145517j:plain

 

 同じ厨房で働いているユミさんは、以前パン教室で小さな子どもにメロンパンの作り方を教えていました。

f:id:pukapuka-pan:20210710145621p:plain

 ユミさんは障がいが重いと言われている人です。そんな人が小さな子どもにメロンパンの作り方を教えていることにびっくりしたことがあります。

 人は仕事をすることで成長していきます。その成長ぶりは、障がいが重いとか軽いといった私たちが勝手に決めた区分を、軽々と超えていきます。なんか痛快ですね。彼らはこうやって新しい未来を作っているのだと思います。

「ともに生きる社会」って、彼らに対して、素直にそう思える社会

 先日Facebookに載っていた写真。 

f:id:pukapuka-pan:20210706151531j:plain

 

 なんて気持ちよさそうに寝てるんだろう。見ているこちらまで幸せな気持ちになります。

 パン屋に来て、幸せな気持ちになれるって、なんだかトクした気分。こういうお店は、日本広しといえども、そうそうありません。

 ぷかぷかさんがいてこそ、生まれてくる雰囲気です。私たちだけでは、絶対に生まれない雰囲気。そういう意味では、彼らには感謝しかありません。

 「いっしょに生きててよかったなぁ」しみじみそう思います。そして何よりも思うのは「あなたにいて欲しい」。

 「ともに生きる社会」って、彼らに対して、素直にそう思える社会だと思います。そう思える関係が作り出す社会です。

 

 そう思える関係をどうやって作るか。

 ぷかぷかは、彼らといっしょに生きていきたいと思って始めたところです。その結果、ぷかぷかは小さいながらも「ともに生きる社会」を生み出しました。その社会にある「心地よさ」をぜひ味わいに来てみて下さい。