ぷかぷか日記

ぷかぷか理事長タカサキによる元気日記

ぷかぷか日記は以下に移転しました。
ぷかぷか日記 – NPO法人ぷかぷか

あなたがいて幸せ

 映画『梅切らぬバカ』を見てきました。映画の話は以前から知っていたのですが、たまたま朝日新聞デジタル版に加賀まりこさんの話が載っていました。

digital.asahi.com

 その加賀まりこさんが映画の中心にいるちゅうさんのお母さん役で登場します。

《今回は、ちゅうさんを好きになってほしい、という思いだけで現場にいました。魂を込めて。50歳を迎える自閉症の息子が自分が逝った後もつつがなく暮らせるように、「ちゅうさん元気?」と気にかけてくれる隣近所を作ることだけを願っていました。それしかできないから。そこが伝わってほしい。》

 とあって、これは行かねば、と思い、翌日、さっそく映画見てきました。

 

 障がいのある人が地域で暮らしているとどういうことが起こるのか。すぐ隣の家の人や、グループホームの周辺に住んでいる人たちとの間に生まれる様々な軋轢。それをリアルにわかりやすく見せてくれます。

 社会の悲しい現実。でも、「それはおかしい」と声高に叫ぶのではなく、どこまでも日々の暮らしの中で起こることを通して、地域社会がゆっくり変わっていくことを映画は見せてくれます。

 険悪な隣人との関係も、気がつくと一緒に食事をする仲になっていたりします。このあたり、ストーリー展開が実にうまい。自閉症の忠さんとそのお母さんの誠実な生き方が地域社会を少しずつ変えていきます。

 忠さんを抱きしめながら「あなたがいて幸せ」というお母さんの言葉がすごくいい。お母さん役をやった加賀まりこさんの実生活から生まれた、と記事にありました。 

     f:id:pukapuka-pan:20211216163753j:plain


     障がいのある人といっしょに生きていく上で

 「あなたがいて幸せ」

と思える関係は、まわりの社会をも豊かにします。

 そんなお母さんの思いが、隣の家の子どもに伝わり、事件をきっかけに家族に伝わり、険悪だった関係が、一緒に食事をするまでになります。みんなが幸せになります。

 お父さんの変わりようがすごいですね。お父さんの人生、これからどんな風に変わっていくんだろうと楽しみになります。

 この幸せ感の共有こそが、いっしょに生きる社会を作っていきます。グループホームに反対している人たちが共有するのも時間の問題だと思います。

 ちゅうさんとそのお母さんが日々幸せを感じながら梅の木のある家で暮らし続けること。それがまわりの社会を少しずつ変えていきます。

  

 

 ぷかぷかはタカサキが養護学校の教員をやっている時に、障がいのある子どもたちに惚れ込み、彼らのそばにいるとなんとも心が安らぎ、幸せを感じたことがそもそもの始まり。惚れ込んだ彼らといっしょに生きていきたいと、ぷかぷかを立ち上げました。「彼らとはいっしょに生きていった方がいいよ」「その方がトク!」というメッセージを様々な形でしつこく発信し続けました。

 たくさんの素敵な出会いがあり、彼らのまわりに「あなたがいて幸せ」と思う人がたくさん生まれました。ぷかぷかのまわりの社会がまぁるく、そして柔らかくなった気がしています。

 

happinet-phantom.com


 

あーだこーだイロイロあって、うるさくて、面倒で、でも愛おしい!

 先日ぷかぷかに来られた方から感想をいただき、その中に素敵な言葉がありました。ぷかぷかは障がいのある人たちを支援するところではなく、いっしょに生きる場、ということはいつも言っているのですが、そういう場を実にうまく表現する言葉でした。

 

「活気があって、生き生きしていて、ごちゃごちゃしていて、・・・大好きです!」

みんなそれぞれ、あーだこーだイロイロあって、うるさくて、面倒で、でも愛おしい!」

 

 いっしょに生きるってどういうことなのか、それを全部うまく表現している気がしました。ぷかぷかに来て、わずか1時間ほどでしたが、感じたままを言葉にしたのだと思います。

 にしてもうまいなぁ。

 障がいのある人たちといっしょにそんな風に「活気があって、生き生きしていて、ごちゃごちゃして、あーだこーだイロイロあって、うるさくて、面倒で、でも愛おしい!」と思える場を作ってきた。それがぷかぷか。こういう場こそ、今、私たちに一番必要じゃないか、って思います。

 「あーだこーだイロイロあって、うるさくて、面倒で」は「支援」という関係がいちばん嫌うこと。そういうことを避けるために「支援」する。そのいちばん嫌うことを、ぷかぷかはどちらかといえば楽しんでやってきた。あーだこーだイロイロあるから毎日楽しいし、うるさいことも面倒なことも全部そのまま引き受けて楽しんできた。だからからこそ、こんなにも愛おしいぷかぷかができ上がった。

 彼らはたまたまこの時代にいっしょに生まれ合わせた仲間。ならばいっしょに楽しく生きていった方がいいじゃん、て思う。

 障がいのある人の数だけ、こんな場があれば、社会はもっと楽しくて、生き生きとしたものになる気がする。

      f:id:pukapuka-pan:20211205165216j:plain

    f:id:pukapuka-pan:20211205165337j:plain

    f:id:pukapuka-pan:20211205165444j:plain

                                 f:id:pukapuka-pan:20211205205735j:plain

                 f:id:pukapuka-pan:20211205205903j:plain

     f:id:pukapuka-pan:20211205165836j:plain

 

ケームホイ(養護学校キンコンカンー⑥)

 養護学校の教員をやっていた頃の話をふたつ(『子どもとゆく』164号)

 

 高1のキイ君が作業学習で余った布を使ってうちの娘に小さな袋を作ってくれました。うちへ持って帰って、娘が袋を開けると、かわいい手紙が入っていました。

                    f:id:pukapuka-pan:20211202164848j:plain

 「ケームホイってなに?」と娘(当時5才)。家族みんなでしばし考え込みました。

 「これって、ひょっとしたらゲームボーイのことじゃないの」と長男(当時10才)。

 ピンポーンでしたね。キイ君はゲームボーイが大好きでした。それで今度娘にそれを教えてあげるって書いたのだとわかりました。

 にしても、こんなあたたかな手紙を書いてくれるなんて、キイ君最高!って思いましたね。だって、こんな短い手紙で、うちの家族みんなの心をほっこりあたたかくしてくれたのですから。こういう人は社会の宝だと思いましたね。

 

 

 もう一つはやっくんに春が来た話。

 相手は同じクラスのサユリさん。サユリさんは一人だと帰り道がちょっと不安。それでやっくんに途中までいっしょに帰るように頼みました。で、毎日いっしょに帰るうちに春が芽生えたようでした。最近はしっかり手をつないで帰ったりしています。

 今日は帰りがけ、サユリさんが玄関で靴を履き替える時、ひもがほどけてしまいました。結び直そうとするのですが、サユリさんはうまく結べません。私が結んであげようとしゃがみ込んだとたん、近くにいたやっくんがさっとやってきました。

 「ぼくがやってあげるよ」

なんてカッコいいこというんだと感心しましたが、やっくんもうまく結べません。ああでもない、こうでもないと試行錯誤を繰り返します。

 ゆるゆるでしたが、なんとか結べました。

 「やったぁ、ばんざ〜い」

とサユリさんは大喜び。そんなサユリさんをうれしそうに見つめるやっくん。春はいいですね。いっしょに「ばんざ〜い」っていいたくなりました。

 

豊かになる、ということ、それがいっしょに生きていくことの本質。

 11月28日にアップされたばかりのアマゾンの『ぷかぷかな物語』販売サイトのカスタマーレビュー、社会の状況をしっかり見据えた今までにない素晴らしいレビューです。

●●●

この本はある障害者就労継続支援事業所B型のお話ですが、同じくB型で働いている私としては全く違った視点で事業展開されていることに大きく関心をもちました。
まず感じたことは障がいをもつ人たちを支援する対象とした見方でなく、「共にはたらく・生きる」同志として地域を巻き込み(耕す)ながら一緒に活動し、そのほうが絶対楽しいということ。そして持続性があること。「多様性を認め合うインクルーシブ社会の実現を」とどこでも耳にしますが、今の社会の在り方は、教育、就労が障がいをもつ人たちとそうでない人たちとを分けた制度の上で成り立っています。
分離が進むほどその社会の規範に縛られて、障がいをもつ人たちがその多様性を認めてもらうどころか社会に合わせるために押し殺さなければならない、ますます支援、配慮の対象にされてしまう。
ぷかぷかさんのように障がいをありのまま楽しむ方法を作り上げれば、そこに生産性も生まれ、制度も使い倒し、地域も社会も豊かにしていくことを実現していけるのだなととても参考になりました。障がいをもった人たちと関わる仕事をされている方、学校教育関係の方にもぜひ読んでいただきたい一冊です。
何より、ぷかぷかさんたちがとても魅力的です。

●●●

《「多様性を認め合うインクルーシブ社会の実現を」とどこでも耳にしますが、今の社会の在り方は、教育、就労が障がいをもつ人たちとそうでない人たちとを分けた制度の上で成り立っています。》

 なかなか鋭い指摘です。多様性を認め合う社会の実現は、障がいのある人とそうでない人をわけている制度そのものに焦点を当て、そこを変えることが同時進行でないと、多様性を認め合う、なんてまやかしに過ぎないのではないかと思います。といって制度を正面から変えるなんて、実に大変なこと。考えるだけで気が遠くなりそうです。

 じゃあどうするのか、ということですが、ぷかぷかはそんなことは一切考えずに、ただ彼らに惚れ込み、彼らとはいっしょに生きていった方がいいよ、その方がトク!と言い続け、様々な実践を積み重ねてきました。でも結果的には、そういった制度を超えるものを作り出せたのではないかと思っています。

 教育、就労の世界で、後に続く人がたくさん出てくれば、制度は形骸化していきます。何よりも、教育、就労の世界が豊かなものになります。この豊かになる、というところが大切です。それこそがいっしょに生きていくことの本質だと思います。

 ただ残念なのは、後に続く人が、この業界でなかなか出てこないことです。見学に来て「素晴らしい」という人は多いのですが、自分の事業所での新しい動きは出てきません。

 カスタマーレビューを書いた方も、「とても参考になりました」というところでとまっている感じで、なんとも残念です。

 

《分離が進むほどその社会の規範に縛られて、障がいをもつ人たちがその多様性を認めてもらうどころか社会に合わせるために押し殺さなければならない、ますます支援、配慮の対象にされてしまう。》

 そもそもどうしてわけたりなんかするのか。あんな素敵な人たちをわけるなんてもったいないじゃん!て思います。結局は、彼らと出会っていない、だから彼らの素敵さが見えないのだと思います。そういったことの上に、わける制度は成り立っているので困ったものだと思います。

 どうしたらいいのか。とにかく彼らといい出会いをすることです。ぷかぷかはそんな出会いをたくさん作ってきました。その出会いが、わける制度を少しずつ崩しています。

 

 

いつも健常者が上に立って、指導したりサポートしているという言い方が違うなと思っていました。

『ぷかぷかな物語』の感想が届きました。

●●●

様々、障害者雇用や福祉に関する本を読みましたが、
1番共感した本でした。
 
私は障害者雇用に携わりたく、ある会社に入社いたしましたが、
色々考えているうちに、障害者雇用、障がい者支援、どれも何だかしっくりこなくて、結局いつも健常者が上に立って、指導したりサポートしているという言い方が違うなと思っていました。
 
自分はどのようにして障がいを持つ方たちと携わりたいのか、何をしたいのか、言語化するのが難しいなと思っていましたが、本ではなるほど!そういうことか!と納得する表現がたくさんあり、本当に共感しました。
 
ぷかぷかさんとは、一緒に生きていく方が豊かで、街を耕してくれる存在。
素敵すぎます。
私もぷかぷかさんのようにどんな人の魅力も引き出せるようなことができたらなあ、そして、知ろうとしてくれる人が増えたらなあ、そう思っています。
●●●
 「結局いつも健常者が上に立って、指導したりサポートしているという言い方が違うなと思っていました。」という感覚が素晴らしいですね。こういう人こそが、障がいのある人たちと一緒に新しい未来を作っていくのだと思います。理屈ではなく、感覚的に「それはおかしい」と思うことが大切です。その感覚は障がいのある人たちとのフラットなおつきあいから生まれます。
 いろいろできないことがあっても、おつきあいしていると、なんかすごく楽しかったり、ほっこりあたたかい気持ちになったりしたのだと思います。だから「いつも彼らの上に立って指導したりサポートしたり」といったことに疑問を感じたのだと思います。すごく大事な気づきですね。
 昔養護学校の教員をやっていた頃、「指導」という言葉がどうもしっくりきませんでした。子どもたちは、いろんなことができなくても、そういったことを突き抜けてしまうような魅力を持っていました。そんな人たちにえらそうに「指導」するなんてことは恥ずかしくてできない気がしていました。彼らからは人間が生きる上で大切なことをたくさん教わりました。彼らと出会うことで、私は人生が変わったと思っています。人生がとても豊かになったと思っています。ですから、彼らより自分がえらいとはどうしても思えなかったのです。
 彼らのおかげで『街角のパフォーマンス』という本まで書くことができました。

          f:id:pukapuka-pan:20211128005351j:plain

 彼らと出会い、こんな素敵な人たちを養護学校に閉じ込めておくのはもったいないと、学校の外に連れ出しました。たくさんの人に出会い、たくさんの素敵な物語が生まれました。社会を、お互いがもっと生きやすくなるように変えていくような物語です。それをまとめたのがこの本です。
 「ともに生きる」だの「共生社会」だのの言葉もまだなかった時代です。それでも養護学校の子どもたち、生徒たち、それに地域の人たちで小さな共生社会を実現させていたのです。
 たとえばこの写真。養護学校の生徒たちと地域の子ども、大人たちが一緒になって即興で人形劇を作った時のものです。

f:id:pukapuka-pan:20211126170239j:plain

 こんなことを街角でやっていたのです。小さな共生社会がここにはありました。

 今この社会の中で、こんな場面がいったいどれくらいあるでしょうか。社会はどれくらい進化したのでしょうか?「ふれあいフェスティバル」だなんて、ちゃんと関係ができないことのごまかしですよ。ふれあってるような関係からは、豊かなものは何も生まれません。上の写真、ふれあってるとはいいません。彼らといっしょに生きるということと、ふれあう、というのは全く違うのです。

 

『ぷかぷかな物語』はぷかぷかサイトで販売中。著者サイン入りです。

shop.pukapuka.or.jp

 

『街角のパフォーマンス』はオンデマンド版をぷかぷかのサイトで販売中。著者サイン入りです。
『街角のパフォーマンス』はタイトルを『とがった心が丸くなる』に変えて電子本がアマゾンで販売中

 

 本を読まれて、ああおもしろかった、と思われた方はぜひ『とがった心が丸くなる』のカスタマーレビューを書いてください。

そのままのあなたがいちばん魅力的、と私たちが思えるかどうか

 『ぷかぷかな物語』は読まれましたでしょうか?アマゾンの販売サイトのカスタマーレビューにはこんなことが書かれています。

 

《 横浜市緑区霧ヶ丘にあるしょう害のある人たちが働いている「ぷかぷか」という面白いお店の誕生からの様々なドラマがとても読みやすく書かれているノンフィクション。よくある「福祉事業所」とは程遠い世界の成り立ちや世界観に引き込まれてしまいます。「しょう害があっても、社会に合わせるのではなくありのままの自分で働く」「しょう害の無い人も、しょう害のある人と一緒に生きていったほうが幸せ」それを伝えたい筆者でありぷかぷかの理事長の高崎さんの厚く深い人間愛に感動します。
この本に出逢い、いてもたっても居られなくなり、実際に「ぷかぷかさんのお店」にも行ってきました。本の通りの明るく楽しく元気なエリアで、とても幸せな時間を過ごせました。まるで天国のような所でした。》

 

 本を読んでいても立ってもいられなくなり、ぷかぷかのお店にやってきたという方。「とても幸せな時間を過ごせました」といいます。

 障がいのある人たちの働く場で、どうしてそんな気持ちになるのだろうと思います。障害者はなんとなくいや、怖い、近寄りたくない、と思う方がまだまだ多い社会にあって、「とても幸せな時間を過ごせました」という言葉が出てくるのはどうしてでしょうか。

 

 別の方はこんなことを書いています。

《 私も障害のある子どもを育てていますが、家族になってよかった。家族があたたかくなりました。ぷかぷかさんは社会をあたたかくします。耕します。そのことがこの本を読んでしっかりわかりました。》

 

 ぷかぷかさんたちは社会をあたたかくする存在なんだろうと思います。ぷかぷかのほっこりあたたかな雰囲気、ホッと一息つけるような雰囲気は、ぷかぷかさんたちが作り出したものです。私たちがああしなさい、こうしなさい、といってできたものではありません。彼らがありのままの彼らでいた時、自然にこんな雰囲気ができました。それが彼らのチカラなんだと思います。

 そのチカラがこんな素敵なぷかぷかを作り上げたのです。

 

 こんな場所をあちこちにつくるコツ、それは障がいのある人たちに向かって、社会にあわせたあなたではなく、そのままのあなたがいちばん魅力的、と私たちが思えるかどうかです。そんな風に素直に思えるようになった時、あちこちに素敵なぷかぷかが出現します。ぜひやってみて下さい。

f:id:pukapuka-pan:20211125130208j:plain

f:id:pukapuka-pan:20211125130327j:plain

f:id:pukapuka-pan:20211125130339j:plain

 

 『ぷかぷかな物語』には、そのコツが満載。まだお読みでない方はぜひ。

shop.pukapuka.or.jp

 

 すでに読まれた方はアマゾンの販売サイトでぜひカスタマーレビューを書き込んで下さい。

www.amazon.co.jp

 



いや〜別によく働くなくてもいいよ

 この季節、長野のリンゴ農家佐藤さんからたくさんのおいしいリンゴが届きます。その佐藤さんには昔、養護学校の生徒を2週間ほど預かってもらったことがあります。佐藤さんちに泊まり込みでリンゴ農家の仕事を体験させてもらったのです。

 養護学校の生徒とのおつきあいの経験はありません。でも、私の学校での楽しそうな話を聞き(その頃毎年のように夏、北海道の子連れ旅の帰り、小樽から新潟までフェリーに乗り、その足で長野の佐藤さんちに一家で泊めてもらっていました)、じゃあ一度生徒を預かってみるか、ということになりました。

 障がいのある生徒と一緒に仕事をするとか、生活するとかの経験がなかったので、いろいろ大変なこともあったと思います。それでも2週間のおつきあいの中で、自分の人生が変わるような気づきがたくさんあって、すっかり惚れ込んでしまったといいます。実習が終わって帰り際、佐藤さんは涙がとまらなかったといいます。

 そんなことがあって3年後、佐藤さんはなんと近くの養護学校でコンサートの企画をします。京都からじぶんの好きな歌手を呼んで養護学校の生徒たちに聞かせるんだといいます。

「マサル(佐藤さんちに泊まり込んで実習した生徒)のおかげで自分の人生が変わった気がするから、そのお礼よ」

と事もなげに佐藤さんは言います。歌手へのギャラとか交通費を考えるとそれなりのお金がかかったのではないかと思うのですが、もうびっくりしました。

 

 後日、よく働く生徒が見つかったから、来年の夏、またお願いします、って電話したら、

「いや〜別によく働くなくてもいいよ、俺は養護学校の生徒がいるだけで楽しいんだよ」

 「ともに生きる社会」だの「共生社会」だのの言葉がまだなかった頃の話です。人と人との出会いこそ、新しい時代を切り開くのだと思います。

 

f:id:pukapuka-pan:20211121164554j:plain