ぷかぷか日記

ぷかぷか理事長タカサキによる元気日記

パン屋が始まった頃の話−3

 お金が回らなくなり、就労継続支援A型からB型へ

 「ぷかぷか」のパン屋の構想を練っている頃、福祉事業所を作るという意識はなくて、「障がいのある人たちととにかくいっしょに働く場を作りたい」という思いだけでした。これは「福祉起業家」の発想です。

 福祉制度を使うことについてはいろいろ引っかかりもあり、自力でやるつもりでした。自力でなんとか最低賃金を払おうと思っていました。制度を使うことで、商売に甘さが出てくるような気がしていました。おいしいパンを必死になって作らなくても、制度を使えばなんとかやっていけるというところがずっと引っかかっていました。

 ところがあるとき知り合いから、「事業を安定して長続きさせるにはやはり制度を使った方がいいのではないか」というアドバイスを頂きました。

 「事業は闇雲に突っ走るのではなく、安定して継続させることが大事」という言葉は、私の中に響きました。利用者さんのことを考えれば、経営が安定して、事業が続くことが一番大事なところです。いろんな引っかかりよりも、そちらを優先し、定員が10人から始められる就労継続支援A型で始めることにしました。

 就労継続支援A型は、障がいのある人たちの就労支援を行う事業所。利用者さんと雇用契約を結び、最低賃金を支払います。事業所としては就労支援という福祉サービスの報酬が受け取れます。

 もっとも、最低賃金を支払い続けることがどれくらい大変なことか、始める前はわかっていませんでした。「障がいのある人たちに最低賃金を払いたい」という思いだけが先行し、そのための根拠になる売上高の検討は曖昧なままでした。絶対に売れる(と思っていた)国産小麦・天然酵母のパンで勝負すれば「多分払える」と思っていたあたりが、商売の素人の甘さです。

 その甘さは事業が始まってすぐに露呈しました。

 国産小麦・天然酵母のパンは思っていたほど売れませんでした。それを求めるお客さんがあまりにも少なかったのです。売上げは伸びず、ぷかぷかのパン屋が始まって1年目、資金繰りが限界に来ていました。給料日のたびに自分の貯金を取り崩し、資金を投入しないとやっていけないような状態でした。

 あっぷあっぷしている時に、福祉事業所を長年やっている方と話をする機会がありました。

「そんなに無理することはないのではないか」

「ここでつぶれてしまったら、利用者さんは困ってしまう」

「事業は続けることが大事」

そんなアドバイスをいただきました。

 「障がいのある人たちに最低賃金を払いたい」という思いはあっても、そのために資金繰りが悪化し、事業が続けられなくなるのであれば、本末転倒。ここはいったん最低賃金を取り下げ、ぷかぷかが無理なく払える賃金から再スタートしようと思いました。

 事業を続けることを最優先することにしたのです。利用者さん、保護者の方にもそのことを説明し、なんとか納得していただきました。就労継続支援A型からB型への変更です。スタートして1年3ヶ月目のことでした。

 

★ パンは1個100円とか200円の世界です。作っても作っても、入ってくるお金はたかがしれています。これでもって最低賃金を支払えるだけの売上げを上げるのは、やはりかなり厳しいのではないかと思います。

 ぷかぷかに来ているパン職人の話を聞くと、前に居たパン屋は朝3時から仕事が始まり、夜は8時頃まで仕事をし、土、日も休めなかったそうです。それくらい働かないとパン屋では食べていけないということでしょう。

 ぷかぷかのパン屋が始まる前、私が研修に行ったパン屋の職人も、「一日8時間勤務なんて、夢のまた夢ですよ」などと言っていました。プロの職人ですらこんな状態ですから、障がいのある方がパン屋で働いて最低賃金を稼ぐというのは、相当無理があったのではないかと、今更ながらに思います。

 福祉事業所の集まりで、長く就労継続支援A型をやっている事業所の方が、「最低でも利用者さんが20人いないと事業として成り立たないよ」とおっしゃっていました。20人分の福祉サービスの報酬が入る中で何とかやりくりしているという話でした。「ぷかぷかは10人でやっています」と言うと、「それは無理無理」と言われてしまいました。