ぷかぷか日記

ぷかぷか理事長タカサキによる元気日記

しのちゃん

 あるケースワーカーと話をしているとき、昔担任していたしのちゃんの話がでた。いちばん苦労しただけにいちばん懐かしい生徒だ。



 しのちゃんは障害の程度でいえばいちばん重度で、いろいろ手のかかる生徒だった。中でもいきなりぶん殴ってくる暴力には本当に泣かされた。何の前触れもなく、いきなり「わーっ」と叫びながらぶん殴ってくる。ほとんど警戒していないので、げんこつがもろに顔に当たる。鼻の骨にひびが入ったり、胸に頭突きを食らって肋骨にひびが入ったり、鼻血を出しながら格闘したり、本当に大変だった。養護学校の教員は「なぐられてなんぼ」の商売、という人もいたが、しみじみ「ほんとにそうだ」と殴られながら思ったものだ。



 ふつうならこういう人には1メートル以上は近づかないとか、いつも警戒態勢を取るとかするのだが、ぼくはそういうことは全くしなかった。1メートル以上近づかないどころか、いつもべったりそばにくっついていたし、警戒は全くしなかった。だからしょっちゅう殴られたりけられたりしていた。別に意識してそうしていたわけではなく、しのちゃんが好きだったのだ。殴られても、けられてもしのちゃんがなぜか好きだった。



 しのちゃんは全く言葉をしゃべらなかった。その分、というか、笑顔が素敵だった。しのちゃんが笑うと、それだけでぼくは幸せな気持ちだった。殴られた痛みや怒りをいっぺんに帳消しにしてしまうくらいの魅力がしのちゃんの笑顔にはあった。この笑顔があったから、ぼくは殴られてもけられても、しのちゃんのそばにいつもいた。



  養護学校だからこういう対応ができたが、社会に出ると、そうもいかない。卒業するときも、週一回くらい通える場所は何とか見つかったが、それ以外は施設で暮らすしかなかった。今どうしているのだろう、となんだか無性に会いたくなった。今度施設に電話してみよう。